【独学・初心者】上達する!古典臨書の学習方法、おすすめの古典

書道の基礎知識

書道の上達には古典の臨書が最重要!という話を聞いたことはありませんか?
しかしながら、

「古典臨書を始めてみたけど、古典の良さがわからない」
「古典の数がたくさんすぎて、どれを練習したらいいのか迷う」
「古典の文字って…正直へたくそに見えて、お手本にしてもやる気が出ない」

というように、いざ古典臨書を始めてみると疑問に感じられる点も多くないでしょうか?
まさに私がそうでした。

子供の頃に習字教室に通っていた私は、誰が見ても美しい文字のお手本に慣れていたので、初めて古典の個性溢れる文字に接したときには、「え!こんなのでいいの?適当に書いてるだけじゃん!」と思っていました。そんな私でも、今では古典臨書がとても楽しく、もっともっと上達したい!とモチベーション高く練習しています。

この記事では、私の実体験を通して感じた

● 古典臨書の重要性、魅力
● 古典臨書の学習方法
● 初心者におすすめの古典

をお伝えします。

この記事を読むと、古典臨書に興味がわき、さっそく筆を持ちたくなってしまいますので、ぜひ最後までご覧ください。

古典臨書とは

書道の「古典」とは、中国や日本の先人が残した優れた書(筆跡)のことです。その古典をお手本として模写して学ぶことを「臨書」と言います。

古典は、紙などに肉筆で書かれたものもありますが、石碑や金属などに彫られたものも多いです。そのため、紙に写し取った拓本がお手本として多く使われています。

拓本は、肉筆と違い刃物で彫ったものを写したものなので、穂先や点画の細かい様子が実際の肉筆とは異なることがあると考えられます。また白黒が反転している、劣化や傷で不鮮明な部分がある、など、お手本にする場合どうしても見にくくわかりにくい面があります。これらが、初心者が古典臨書に苦手意識を持つ要因のひとつです。

古典臨書の重要性 自分の引き出しが増える

古典臨書の重要性は、たくさんの先人方が伝えてくれています。なぜそんなに重要なのか、私自身が古典を学んできて思うことを言葉にすると、「自身の美意識や癖が抜けて、そのうえで引き出しが増えるから」だと思います。

私が習字を習っているときは、読みやすく均整のとれた、お手本の字が唯一無二の美しさであり、そこを目指すことが目標でした。ですが、古典にはさまざまな書風があります。力強い字、懐の広い字、温かみのある字、クールでスマートな字・・・「筆に墨をつけて紙に書く」という同じ動作から、こんなにも雰囲気の違う個性溢れる作品があることに気がつくと、とても衝撃を感じました。

さらに、千年以上も前に書かれたものが、高く評価され続け今世に受け継がれているということは、それだけたくさんの優れた古人に認められた素晴らしい作品であるということなのです。それを踏まえると、まだ未熟な自分の感性がその字を美しいと感じられなくても、それは単純に自分がその作品を見る目が追い付いていないだけだと思えてきたのです。

古典の臨書をすると、今までの美しい正しい文字を書くときとは違う筆使いや字形を真似することになります。それを重ねることで、先人たちの優れた感性を感じられるようになり、自分の中にある美しさや書き方への思い込み、つまり思考や運筆などの「癖」のようなものが削られていきます。そして、より深く広く古典をインストールすることで、自分自身の作品作りに活かすことができるのです。

たとえば海外へ初めて留学するような経験が、今までの価値観やこだわりを壊して自身が一回り大きく成長できる結果になるように、今まで知らなかった古典の世界を学ぶことが、自分自身を大きく幅広くしてくれることにつながるのです。そのことが、自分の作品を作る創作に取り組むときに、引き出しの多さとして役立っていきます。

古典臨書の魅力 個性が楽しい!

古典臨書の魅力は、やはり、個性溢れる書風を味わえることではないでしょうか?
初めは、古典を眺めてもどこがいいのかさっぱりわからないかもしれません。私もそうでした。
されど、そんな中でも多少の好みは感じられると思います。
「優美な感じより力強い感じのほうが好きだな」
「へたくそに見えるけど、なんかかわいらしくて好きだな」
など、その程度で大丈夫なので、自分の感じた印象をまずは楽しんでみてください。

そして古典臨書を続けていくと、その好みも変わってきたり、幅広くなっていきます。
同じ人物が書いたものでも、作品によって書風の違いを感じますし、逆に同じ人物が書いた楷書と行書を見比べると、筆使いに共通点を感じたりもするのも面白いところです。どんな人物がどのような境遇で書いたのかというような時代背景も勉強すると、さらにその作品に愛着を感じます。

また、本などで古典を見て、展覧会などで実際の作品を見て、たくさんの素晴らしい書作品に触れることで見る目と感性が養われていくようです。私はもともと芸術的センスが皆無な人間ですので、美術館などに行っても作品の素晴らしさがまったくわかりませんでした。書道作品も同じく、なにがいいのかさっぱりわからなかったのですが、それでも実際の作品を見る機会が増えてくると、少しずつ感じられることが増えてきたように思います。

私もまだまだ勉強中の身ですが、古典臨書を続けていけばいくほど、古典の素晴らしさが深く理解できると実感しており、そのこと自体が大きな魅力であると思っています。いわゆる「沼」状態、続ければ続けるほどハマってしまうのであります。

古典臨書の学習方法

では、古典臨書をするには実際にどうしたらいいのか?具体的な学習方法をお伝えしていきます。

臨書の種類は3種類

臨書の目的によって、3種類にわかれています。

●形臨  字形や用筆を忠実に模写する。
     習字でお手本を見て書くのもこれにあたる。
●意臨  形以外の要素(作者の意図など)も捉えようとする。
     どうしてこのように筆を動かすのか、どのような状況、気持ちで書いたのか、など考える。
●背臨  古典を自分の中に落とし込んだ上で、それを見ずに書く。
     その古典を自分のものにして自身と融合させて書にする、臨書の最終段階。

形臨→意臨→背臨とステップアップしていくイメージですね。

書道上達のために古典臨書にチャレンジされるのであれば、「形臨」だけではなく「意臨」を意識して臨書してみましょう。

臨書のやり方 まずはお手本をよく見てから

それでは、具体的にはどのような手順で臨書していくのか?ということですが、せっかく古典臨書に挑戦するなら上達する方法で取り組みたいですよね。ただお手本を隣に置いて何枚も書いてみるよりも、より早く効率よく上達できる方法を解説していきます。

1 お手本を読む

まずは、何と書かれているのか?書かれている漢字は何なのか?を把握しましょう。
自分が見えたままを真似するのと、どのような漢字がどのように崩されてこうなったのかを理解して書 くのでは、全く違ったものになってしまいます。

2 お手本を観察する

【印象】
全体を見た印象を感じましょう。柔らかい、動きがある、ひょうひょうとしている、優雅、など、古典から感じられる印象が、自分が書いた作品からも感じられるようにすることが良い臨書と言えます。

【形】
字をひとつひとつ見ていきます。字の全体的な形が縦長なのか横長なのか、どの線が一番目立つか、中心からどのように広がっているか、線や点の間の空間の広さ狭さはどうか、線の方向(右上がり、反り)はどうか、など、点画の長短・疎密・方向などを確認します。

【用筆】
どのような筆使いで書かれたものかを考えます。始筆(筆が紙に触れるときの、ひとつの点画の書き始めの筆使い)がとがっているのか、丸くなっているのか、はね・はらいに特徴があるか、一つの線の中での変化(太い・細い、強弱)はあるか、などを見ていきます。

【書き順】
どのように筆を動かして書いたのか、実際に指でなぞるなどして考えてみます。現在の漢字の正しい書き順とは異なるもので書かれているものも多いですが、行書や草書は線のつながりで書き順がだいたい想像できます。いざ筆を持ったときに迷わないように、事前に書き順を頭に入れておきましょう。

3 書く

ここまで準備してから筆を持つことで、意識すべきことが頭に入った状態で臨書できます。そして、書き終えたら必ずお手本と見比べて、自分なりにお手本との相違点を探して改善するところを考えていきましょう。

見比べるときは、壁に貼るなど少し距離をとって見てみたり、スマホで写真に撮ってみたりすると、より客観的に見ることができます。ただやみくもに何枚も何枚も書き続けるよりも、「書いたらよく見て反省」を繰り返すことで、より早く上達に近づけます。

おすすめの3ステップ

では具体的にどのように古典臨書に取り掛かるか、おすすめのステップをご紹介いたします。

  1. YouTubeで情報収集する
  2. 法帖付きの本を入手する
  3. インスタグラムに投稿する

この手順で、初心者でも独学でも楽しく臨書を続けていけます!

1 YouTubeで情報収集する

YouTubeで「古典臨書」と検索してみてください。古典の学び方や臨書のコツを解説した動画や、ひとつの古典に絞って、実際の筆使いが見られる筆法解説の動画など、非常に勉強になる動画が山ほど出てきます。何から始めたらいいかわからない方も、まずは動画で気軽に古典に触れていくと、自然と興味がわくものが見つかってくると思います。

また、実際に臨書してみて、うまくいかないときにも、書道の達人方の筆使いや解説が見られる動画がたくさん上がっていますので、上手に利用して学ばせていただきましょう。

私の一押しは、書家の石野華鳳さんのチャンネル「華鳳先生の書道学校」です。実力もある大変有名な書家の先生ですが、まず外見が若くておしゃれな方なので、書道のイメージにありがちな「かしこまった、型苦しい」というような印象が吹き飛びます。フレンドリーな話し方で偉ぶった感じがなく、初心者の目線を大事にしてわかりやすく解説してくれる、とにかく勉強になる魅力溢れるチャンネルです。

このように、実力のある有名な先生方の解説や筆使いを無料動画で見られるなんて、ひと昔前では考えられなかったことですよね。この恵まれた環境に感謝しながら、どんどん利用して学びを深めていきましょう。

2 法帖付きの本を入手する

法帖(ほうじょう)とは、書道においてで書かれた書蹟のうち、保存・鑑賞・学書用に供するために仕立てられたもののこと

法帖 – Wikipedia

つまり、「古典の拓本(石碑などに彫られたものを写しとったもの)などを、お手本にしやすいように大きさを整え本にしたもの」が販売されていますので、それを入手して臨書してみましょう。

書いてみたい古典がいくつかあって迷う方におすすめなのが、

「高校の書道の教科書」です。

私の手元にも「東京書籍」の高校書道Ⅰの教科書があります。楷書、行書、草書、隷書、篆書それぞれ、有名な古典が一部分だけですが写真付きで掲載されているので、少しずつ試してみたいときにはうってつけです。

また仮名や調和体(漢字仮名混じりの書)、創作の仕方、書道史年表や道具についてなど、幅広く網羅されているので、基礎が知りたい、正しい知識を得たいときなど辞書的にも見返すことができて、非常に重宝しています。

何より、お値段が安いところが魅力です。Amazonなどでも販売されていますが、メルカリでも中古品がよく出品されており、1,000円以下や、中には300~500円程度で売られていることもあります。コスパ最高のお手本になりますので、まず手始めに入手されてみてはいかがでしょうか?

3 インスタグラムに投稿する

自分である程度納得できるものが書けたら、まずはスマホで写真を撮って、見てみましょう。写真に撮ったものを観察すると、全体像を客観的に見ることができ、そのものを見ているときとは違った点に気が付くことがあります。

そして、写真に撮ったら、それをインスタグラムに投稿してみることがおすすめです。今お持ちのアカウントに投稿されるのもいいのですが、書道専用のアカウントを作って作品投稿を続けてみてください。それが自分の書道成長日記となり、見返すときにも見やすく感慨深いものになりますよ。

インスタグラムに抵抗がある方は、まずは自分だけのアルバムを作る感覚で非公開から始めてみると、投稿のハードルが下がると思います。投稿写真が増えていと、自分の頑張りを視覚的に感じられるので、モチベーションの維持に大きく役立ちます。

初心者におすすめの古典

さっそく古典臨書をやってみたくなった方へ、おすすめの古典を紹介させていただきます。

九成宮醴泉銘(楷書)

九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)は、楷書の極則とうたわれるほどの古典です。楷書の最盛期と言われる初唐で、「初唐の三大家」に入れられる「欧陽殉(おうようじゅん)」が書いたものです。

点画が厳しくとがった印象で、バランスのとれた整った字形がとても美しい楷書です。私の勝手なイメージでは「クールビューティー」といった印象です。

整った美しい字形を学べる点と、楷書で読みやすい、現代の漢字とそんなに違いがない、ということから初めて古典に触れる人にはまずおすすめしたい古典です

蘭亭序(行書)

蘭亭序(らんていじょ)は「書聖」と称される「王義之(おうぎし)」の書で、書道史上で最も重要な古典であると言えるほど、有名なものであります。行書の最高傑作と言われ、後の時代の書家たちは、みな王義之の書を学び多大な影響を受けていると言われています。

蘭亭序が行書の最高傑作と言われる所以は、ほどよい動きがバランスよくまとまっている点にあると思います。流れるような筆づかい、点画や線質が変化に富んでいて、生き生きとした印象を出しながら、一字ごとや全体で見たバランスが整っていて美しい。このような魅力溢れる作品であります。

蘭亭序から学ぶべきことは、「筆の全ての面を使う筆使い」です。筆の表面だけでなく、裏、左右、どの面を使って書かれた線なのか、拓本をよく観察して想像して書くことが、蘭亭序を学ぶ目的と言えます。書道の一番の肝とも言える筆使いを習得するのに、うってつけの古典が蘭亭序なのです。

古典は書道にとっての宝の地図

長年評価され続けている古典は、過去の偉大な書家達がこぞって学んできたという歴史があるように、書道の上達には欠かせない学ぶべき要素が詰まった「宝の地図」のようなものです。

まずは、わからないなりに、見て・書いて・感じてみましょう。YouTubeで検索してみる、高校の書道の教科書を見てみる、書道作品を鑑賞する、こういった手軽なものから始めてみてはいかがでしょうか?

最初の一歩踏み出して、ぜひ気軽に臨書を楽しんでくださいね。

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